貸家着工戸数:全国は減少傾向、沖縄は増加
国土交通省の建築着工統計によれば、2025年度(4~3月)の全国の新設住宅着工戸数は71万1,171戸で前年度比12.9%減、このうち貸家は30万8,906戸で同13.5%減と年度単位でみれば、大きく落ち込みました。2025年4月に施行された改正建築基準法・省エネ基準適合義務化に伴う駆け込みの反動が重なったとはいえ、二桁減は小さな数字ではありません。
一方、沖縄県の2025年度の新設住宅着工戸数は1万376戸、このうち貸家は5,536戸と前年度をやや上回りました。着工総数に占める貸家の割合は53%台に達し、2年連続で半数を超えています。全国では貸家の構成比が4割強ですから、沖縄の賃貸住宅市場への傾斜の強さが際立ちます。
さらに2026年に入ってからの勢いは顕著です。1月から6月までの県内の貸家着工は3,280戸で、前年同期の2,009戸を6割以上上回りました。7月の総戸数も1,365戸と前年同月比7割超の増加です。全国的な逆風のなかで、沖縄だけが別の方向を向いている、というのが現在の姿です。
需要を支えているのは世帯数と外国人
背景にあるのは、人口ではなく世帯の動きです。2025年国勢調査の速報値では、県の総人口は146万8,220人と5年前からほぼ横ばい(+0.1%)にとどまりましたが、世帯数は65万1,964世帯と6.1%増加し、1世帯当たり人員は2.25人まで低下しました。人口が増えなくても、世帯が分かれれば住宅は必要になります。賃貸住宅の需要を見るうえでは、人口よりも世帯数を見るべきだという点が、沖縄では特にはっきりと表れています。
もう一つが外国人です。住民基本台帳に基づく2026年1月1日時点の県内総人口は148万4,002人で前年比79人減とほぼ横ばいでしたが、外国人住民は3万2,912人と14.4%増え、日本人住民の減少分をほぼ相殺しました。持ち家率が全国最低水準の沖縄では、こうした増加分の多くがそのまま賃貸需要になります。
賃料は上昇、ただし選別が始まっている
おきぎん経済研究所が2026年8月に公表した2025年度の賃料動向調査では、新築および中古の多くのタイプで平均賃料が前年を上回りました。ただし中古の2K~2LDKは前年並みにとどまり、単身向けについては供給過剰との指摘も出ています。賃料が上がっているから何を建ててもよい、という局面ではなくなりつつあります。
エリア差も鮮明です。ジャングリア沖縄の開業を控えて急増した本島北部の建築需要は一巡し、名護市の貸家着工は前年度比55.4%減となりました。前年度は3.5倍超に膨らんだ反動でもあります。開業前の期待で建てた物件が開業後の実需と噛み合うかどうかが、これから問われることになります。
建築費と金利という二つのコスト
供給側のコスト(主に建築工事費と付帯費用)は上がり続けています。建設物価調査会の建築費指数では、集合住宅(鉄筋コンクリート造)の工事原価は2026年6月時点で145.6(2015年=100)と、この10年余りで4割以上の上昇です。沖縄は資材の海上輸送費に加え、職人不足の影響も大きく、全国平均を上回る上昇が続いています。
金利も転換点にあります。日本銀行は2026年6月に政策金利を1.0%へ引き上げ、9月の金融政策決定会合ではさらに1.25%への追加利上げが見込まれています。また令和8年の地価公示では、県内の住宅地が前年比6.4%上昇と東京都に次ぐ全国2位、商業地も7.3%上昇となりました。土地代、建築費、調達金利がそろって上がる局面では、表面利回りは確実に低下していきます。10年前の感覚で作った事業計画は、現時点では成立しないと考えるべきでしょう。
おわりに
沖縄の賃貸住宅市場は、当面は堅調に推移すると思われます。世帯数の増加、外国人の流入、持ち家率の低さという構造要因は、少なくとも2030年ごろまでは続く見通しだからです。着工戸数の増勢も、ここ数年の反動という側面はあるにせよ、需要の裏付けを欠いたものではありません。
ただし、これからの投資判断は「建てるかどうか」ではなく「どこに、どの間取りで建てるか」に移ります。単身向けの供給過剰が指摘される一方で、高齢単身世帯やファミリー世帯、外国人世帯の受け皿は不足しています。コストが上がる局面で収支を守れるのは、空室リスクの低いエリアで、賃料を改定できる商品性を備えた物件だけです。事業計画は、現在の建築費と1.25%を超える金利水準で試算し直したうえで、判断されることをお勧めします。

