贈与税は「人数減・金額増」の局面に
国税庁が2026年5月29日に公表した「令和7年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」によりますと、暦年課税(1月1日から12月31日までの1年間に受け取った財産の合計額に対して、贈与税をかける仕組みのこと)を適用した申告人員は39万人(前年比▲1.3%)と減少した一方で、申告納税額は4,215億円(同+28.7%)と過去最高を更新しました。相続時精算課税も、申告人員は8万人(同▲0.8%)とほぼ横ばいながら、申告納税額は823億円(同+24.6%)とやはり過去最高です。あわせて公表された土地等の譲渡所得金額も6兆9,394億円(同+6.8%)と、4年連続で過去最高となりました。
人数が伸びていないのに金額だけが大きく膨らんでいる点が重要です。贈与をする人が急に増えたというよりも、地価や株価の上昇によって一件あたりの贈与財産の価額が押し上げられている、と読むのが自然でしょう。賃貸住宅をお持ちの方にとっては、何もしなくても承継すべき評価額が毎年重くなっていく局面だということになります。
令和8年度税制改正の「5年ルール」
そこに大きな制度変更が加わりました。令和8年度税制改正大綱では、被相続人等が相続開始前または贈与前5年以内に、対価を伴う取引により取得または新築した一定の貸付用不動産について、路線価や固定資産税評価額ではなく、取得価額をもとに地価変動等を考慮して計算した金額の80%で評価することとされました。適用は令和9年1月1日以後に相続または贈与により取得する財産からです。不動産小口化商品については、取得時期を問わず通常の取引価額での評価に改められます。
これまで賃貸住宅は、土地が路線価評価から貸家建付地としてさらに約2割減、建物が固定資産税評価額から貸家として3割減、加えて貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例で5割減という、多段の圧縮が可能でした。購入直後であっても同じ圧縮が効いたため、現金を借入と組み合わせて賃貸物件に組み替える「直前対策」が広く行われてきたわけですが、その入口が閉じられることになります。
見落とされがちなのは、この改正が相続だけでなく贈与も対象にしている点です。取得から5年以内の賃貸物件をお子さまに贈与する場合も、令和9年以降は取得価額ベースの評価になります。
「建てる」側に残された本筋
一方、賃貸住宅を建てる立場からは、やや異なる景色が見えます。大綱には、改正を通達に定める日までに、その日の5年前から所有している土地の上に新築した家屋には適用しない、という経過措置が置かれました。長く保有してきた土地に賃貸住宅を建てるという、地主型の土地活用の本流は、当面この網の外に置かれる形です。
また、対象が「対価を伴う取引による取得又は新築」とされていることから、贈与により取得した不動産は対象外と解する余地もあります。土地は親が保有したまま建物だけを子へ贈与し、家賃収入を早期に移転していくという古典的な手法の位置づけも、改めて検討に値するでしょう。ただし、対象となる「一定の貸付用不動産」の具体的な範囲は今後発信される通達次第のようです。
着工は回復、判断は前倒しへ
賃貸住宅の建築そのものは回復に転じています。国土交通省の建築着工統計調査報告によりますと、令和8年6月の貸家着工は30,253戸(前年同月比+24.6%)と3か月連続の増加となり、首都圏では同+30.6%と大きく伸びました。令和7年度が308,906戸(前年度比▲13.5%)と大きく落ち込んだ反動という側面はありますが、2026年1~6月の累計も161,445戸(同+0.3%)とプラスに転じています。建築費の高止まりと金利上昇が続くなかでも、賃料の上昇が投資判断を下支えしている構図です。
まとめますと、これからの賃貸住宅は「買った直後に評価を下げる」ための道具から、「5年を超えて保有し、事業として回す」資産へと、その性格を本来の姿に戻していくことになります。暦年課税の生前贈与加算が3年から段階的に7年へ延びていくのも令和9年以降に開始する相続からであり、時間を味方につけられる方ほど有利であるという点は共通しています。建築から5年、贈与から7年という二つの時間軸を前提に、いつ建て、いつ渡すのかを逆算して設計する。それが今後の賃貸住宅経営とその承継に求められる視点だと考えます。

