相続税を意識する世帯が着実に増えています。国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」によれば、被相続人数(死亡者数)約160万5千人に対し、相続税の申告書の提出に係る被相続人数は16万6,730人、課税割合は10.4%と、基礎控除が引き下げられた平成27年分以降で最も高くなりました。課税価格の総額は23兆3,846億円、申告税額の総額は3兆2,446億円で、いずれも過去最高水準です。地価と株価の上昇が続くなか、相続税は一部の富裕層だけの問題ではなくなりました。ここでは、賃貸住宅の保有・購入がなぜ相続税負担の軽減に有効とされるのか、その理由を四つの視点から整理し、あわせて2027年から適用される新しいルールについても触れておきます。
現金のまま持つより評価額が下がる
相続財産の評価において、現金や預貯金は額面がそのまま評価額になります。これに対して、土地は路線価方式(または倍率方式)、建物は固定資産税評価額によって評価されます。路線価は地価公示価格の8割程度、固定資産税評価額は時価の5割から7割程度が目安とされており、同じ資産価値でも不動産に置き換えるだけで課税対象となる評価額は圧縮されます。近年は地価と建築費の上昇が続いているため、時価(取引価格)と相続税評価額との乖離はむしろ拡大しています。
「貸家建付地」「貸家」としての評価減となる
自分で使う不動産(自用の不動産)と異なり、他人に貸している不動産は所有者が自由に使えません。この制約が評価に反映され、さらに評価額が下がります。
・貸家建付地=自用地としての評価額×(1-借地権割合×借家権割合30%×賃貸割合)
・貸家(建物)=建物の固定資産税評価額×(1-借家権割合30%×賃貸割合)
たとえば借地権割合70%の地域で満室稼働であれば、土地は約21%、建物は30%の評価減となります。更地や自宅として持つ場合と比べ、その差は小さくありません。なお空室がある場合は賃貸割合が下がるため、継続的な入居募集など事業としての実態を保つことが前提になります。
小規模宅地等の特例を併用できます
賃貸住宅の敷地が「貸付事業用宅地等」に該当すれば、200平方メートルを限度に評価額を50%減額できます。貸家建付地としての評価減と重ねて適用できるため、地価の高い都市部ほど効果は大きくなります。ただし、自宅の敷地に適用する特定居住用宅地等(330平方メートル・80%減)などとは選択制で限度面積の調整があり、単価の高い土地から優先して適用するなど、どの土地に使うかの検討が欠かせません。相続後に賃貸事業を廃業した場合などは適用が認められない点にも注意が必要です。
納税資金の確保と資産の組み替え
賃貸住宅は家賃という継続的な収入を生みます。評価額を圧縮しつつ、生前から納税資金を積み上げられる点は、他の相続対策にはない大きな利点です。建築資金を借り入れた場合、その借入金残高は債務控除の対象となります。加えて、駐車場や低未利用地を賃貸住宅に転換すれば、固定資産税の住宅用地特例による負担軽減も期待できます。相続税対策であると同時に、資産全体の収益力を高める土地活用そのものだという視点が大切です。
2027年から変更予定の「5年ルール」に留意
もっとも、このあとに税制の変更が控えています。令和8年度の税制改正により、被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引によって取得または新築した一定の貸付用不動産は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価することとされました。課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の80%で評価できるとされていますが、従来の路線価・固定資産税評価額による圧縮効果は大きく後退します。適用は令和9年(2027年)1月1日以後に相続等により取得する財産からで、不動産小口化商品は取得時期を問わず時価評価となります。なお、改正を通達に定める日までに、その日の5年前から所有している土地に新築した家屋(建築中を含む)は経過措置により対象外です。
裏を返せば、取得から5年を超えて保有していれば、従来どおりの評価方法が使えます。相続直前の駆け込み購入は封じられる一方、早めに着手して長く保有し、賃貸事業として実態を伴って運営するという本来の姿が、これまで以上に重要になるということです。相続対策としての賃貸住宅は「いつ買うか」から「いつから持ち続けているか」の勝負に変わりつつあります。関連する通達の内容は今後明らかになる見込みですので、実行にあたっては最新の情報と税理士など専門家への確認をおすすめします。

