157円台で膠着する為替相場
2026年8月4日現在(執筆は8月4日)、外国為替市場ではドル円相場が1ドル=157円台で推移しています。前日8月3日のアジア時間には、政府・日銀によるものとみられる大規模な円買い・ドル売り介入が入り、相場は一時155.218円まで急落しました。片山財務相が米財務省との緊密な連携と追加の協調介入も辞さない姿勢を強調し、ベッセント米財務長官も協調介入への参加意思を示すなど、日米当局が足並みをそろえて円安をけん制する異例の展開となっています。
それでもニューヨーク市場では、米7月ISM製造業景況指数が市場予想を上回ったことなどを背景に157.220円まで戻し、4日には一時157.67円まで上値を伸ばしました。介入警戒感が上値を抑えつつも、円安圧力そのものは解消していないというのが実情です。
背景にあるのは、依然として大きい日米金利差です。日銀は2026年6月の金融政策決定会合で政策金利を0.75%程度から1.00%程度へ引き上げ、約31年ぶりの水準としましたが、7月30日・31日の会合では利上げの影響を見極めるとして1.0%での据え置きを決めました。利上げ路線そのものは堅持する方針を示しつつ、追加利上げの判断材料として中東情勢や円安基調の影響を挙げており、当面は米国側の金利動向や地政学リスクに左右されやすい構図が続きそうです。
建設費を押し上げる三つの経路
円安が建築業界に及ぼす影響は、大きく三つのアプローチで整理できます。
第一は、輸入建材の直接的な値上がりです。林野庁の直近の統計によれば建築用材の自給率はおよそ5割台にとどまり、残りは輸入に依存しています。鋼材、アルミサッシ、住宅設備機器、制御系の電子部品なども輸入比率が高く、円安はそのまま調達コストに反映されます。第二は、エネルギーと物流です。原油や天然ガスの輸入価格が円換算で膨らむと、セメントや鉄鋼といったエネルギー多消費型の資材製造コスト、重機の燃料費、現場までの輸送費が連鎖的に上昇します。2026年に入って中東情勢が緊迫し、原油相場が不安定さを増していることは、円安と相まって二重の負担となっています。海上輸送ルートの迂回によるコンテナ運賃の上昇リスクもあります。第三は、価格転嫁のタイムラグです。建設工事は受注から引き渡しまでの期間が長く、契約時点の見積りと実際の調達価格が乖離しやすい業種です。円安が急速に進むほどこの差は広がり、施工者の利益を直接圧迫します。
一般財団法人建設物価調査会が公表する建設資材物価指数(2026年6月分)は、建設総合が149.6で前年同月比5.2%の上昇、建築部門が147.8で同4.9%の上昇、土木部門は156.3で同6.4%の上昇となりました。2015年を100とする指数が10年余りで5割近く上昇した計算であり、上昇トレンドに歯止めがかかっていないことがわかります。建築費指数でみても、木造住宅(東京)は前年同月比で5%台後半の上昇が続いています。
工事費に占める資材費の割合を5割から6割程度と仮定すれば、資材価格が1割上がるだけで工事原価は5~6%押し上げられる計算です。ここに労務費の上昇が重なるため、体感としては、コスト増は指数の伸び以上に大きくなっています。
円安のもう一つの側面
一方で、円安は建築業界にとって追い風となる側面も併せ持ちます。ドル建てで見た日本の不動産価格が相対的に割安に映るため、海外投資家による国内不動産の取得意欲は高い水準を保っています。オフィス、賃貸住宅、物流施設、ホテルへの資金流入は、そのまま開発需要や建て替え需要につながり、建設受注を下支えする要因となります。インバウンド需要の拡大に伴うホテル・商業施設の新設や改修も同様です。
住宅市場も底堅さを見せています。国土交通省の建築着工統計によれば、2026年6月の新設住宅着工戸数は6万6,344戸、前年同月比18.6%増と3カ月連続の増加となりました。持家・貸家・分譲住宅がそろって前年を上回り、季節調整済年率換算値も78万6千戸と前月比3.9%増です。25年の省エネ基準適合義務化などに伴う駆け込み需要の反動減が一巡した面はありますが、コスト高のなかでも需要そのものが消えたわけではないという点は、押さえておきたいところです。
今後の対応
こうした環境下で建築事業者に求められるのは、為替変動を「予測する」ことよりも「織り込む」ことです。具体的には、請負契約への物価スライド条項や価格連動条項の導入、資材の早期発注と在庫確保、輸入材から国産材への部分的な切り替え、複数調達ルートの確保などが挙げられます。とくに木材については、国産材が政策的な支援もあって輸入材より価格が安定しており、為替変動の影響を受けにくい選択肢となります。
また、2025年12月から完全施行された改正建設業法により、発注者への価格転嫁交渉の法的な根拠がより明確になりました。
為替相場を正確に読み切ることは誰にもできません。しかし、日米の金利差が当面大きく縮まりにくく、円安が構造的に長期化しやすい環境にあることを前提として、契約と調達の仕組みを設計しておくことは可能です。相場に振り回されない収益構造をどう作り上げるかが、これからの建築業界の分かれ目になるでしょう。

