確実に増える相続の発生
厚生労働省の人口動態統計(月報年計・概数)によれば、2025年(令和7年)の死亡数は158万9,489人で、前年より1万5,889人減り、5年ぶりの減少となりました。
しかし、これは長期の趨勢が変わったとは言えないと思われます。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」では、死亡数は2040年ごろにピークを迎えるとされており、この先も160万人~170万人程度の死亡者数が予想されています。厚生労働省の資料でも、ピーク時の死亡者は年間約168万人と見込まれています。相続の発生件数は、今後15年ほどにわたって増え続けていく計算になります。内地とは人口構成がやや異なる沖縄ですが、内地に比べやや遅れて、同様の傾向が見込まれています。
相続税が課税される数も着実に広がっています。国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」では、課税割合が10.4%となり、前年の9.9%から上昇して初めて1割を超えました。申告書の提出に係る被相続人数は16万6,730人と、基礎控除額が引き下げられた平成27年分以降で最多です。さらに、令和8年分の路線価は全国平均で前年比+2.9%と5年連続の上昇となり、現行の算定方式となった2010年以降で最大の伸び率を記録しました。評価額の上昇は、そのまま相続税負担の増加に直結します。
賃貸用住宅を「売る」り現金で保有すれば相続税評価は上がる、という原則
賃貸用住宅を生前に売却する際、まず押さえておきたいのは、売却によって相続税の評価上はむしろ不利になるという点です。賃貸中の土地は貸家建付地として、建物は借家権相当分だけ評価が引き下げられます。加えて、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例が使えれば、200㎡までの部分について評価額を50%減額できます。売却してしまえば、これらの圧縮効果はすべて失われ、手元に残るのは額面どおりに評価される現預金です。
一方で、現金化には明確な利点もあります。ひとつは納税資金の確保、もうひとつは遺産分割のしやすさです。相続人が複数いる場合、賃貸用不動産を共有名義で引き継ぐと、その後の大規模修繕や再売却のたびに全員の合意が必要となり、次の相続でさらに権利が細分化していきます。築年数が経過し、空室率や修繕負担が重くなっている物件であれば、評価減の効果よりも、争いの芽を絶ち、次世代に負の資産を残さないことの意味のほうが大きい場合もあります。
売却実務における四つの注意点
第一に、譲渡所得税です。所有期間5年超の長期譲渡であれば税率は20.315%(令和8年時点の税率)ですが、賃貸用建物は減価償却が進んで帳簿価額が小さくなっているため、想定以上に譲渡益が出やすいという特徴があります。購入時の契約書が見当たらず取得費が不明な場合、売却価額の5%しか取得費として認められない点にも注意が必要です。
第二に、消費税です。個人であっても課税事業者に該当すれば、建物部分の譲渡は課税取引となります。売却した年の課税売上高が大きく跳ね上がることで、その後の申告義務にも影響が及びます。
第三に、オーナーチェンジ取引に特有の手続です。レントロールの用意や修繕履歴の整備、敷金返還債務の承継、サブリース契約や管理委託契約の取扱い、賃借人への通知など、居住用物件の売却とは異なり面倒なことが並びます。借入金の残債がある場合は、抵当権抹消と決済の段取りを早めに詰めておく必要があります。
第四に、意思能力の問題です。高齢の所有者が認知症等により判断能力を失えば、売却そのものができなくなります。家族信託や任意後見の準備は、売却を検討し始めた段階で並行して考えておきたいところです。
おわりに
相続不動産を売るか持つかという二択ではなく、相続時は「いつ」「誰の名義で」「どの順序で」動かすかが問われる局面です。日本銀行の政策金利は現在1.0%程度まで引き上げられており、買主側の資金調達環境も変化しています。価格が堅調なうちに出口を検討する意味は決して小さくありません。専門家に相談の上、生前売却・相続後売却・保有継続の複数シナリオで手取り額を試算したうえで判断されることをお勧めいたします。

