2026年(令和8年)分の路線価は、全国平均で前年比プラス2.9%と、5年連続の上昇となりました。地価の上昇は一般に「よいこと」と受け止められがちですが、実際にどう作用するかは、立場によって大きく異なります。ここでは、路線価が上昇することの意味を、不動産を持つ側と、税を集める国・自治体の側の双方から整理してみます。
不動産保有者にとってのメリット
第一は、資産価値の増大です。路線価の上昇は、その土地に対する需要の強さの裏返しですから、含み益が積み上がることを意味します。売却すればキャピタルゲインとして実現しますし、賃貸物件であれば賃料改定の余地も広がります。
第二は、担保価値の上昇です。金融機関の評価が上がれば借入余力が増し、建て替えや土地活用、次の物件取得に向けた資金調達がしやすくなります。純資産の増加は、事業者にとっては信用力の向上にもつながります。地価上昇局面で不動産投資が活発になるのは、この経路が効くためです。
不動産保有者にとってのデメリット
最大の論点は、相続税・贈与税の負担増です。路線価は相続税評価額の基準ですから、上昇すれば、同じ土地でも税額が増えます。実際、令和6年分の相続税の申告税額は3兆2,446億円(前年比108.0%)と、基礎控除が引き下げられた平成27年分以降で最高となりました。課税割合も10.4%と、いまや亡くなった方の約10人に1人が課税対象です。東京国税局管内に限れば16.2%に達します。かつてこの割合は4%台でしたが、平成27年の基礎控除引き下げで倍増し、そこに近年の地価上昇が重なっている構図です。相続財産に占める土地の割合は30.2%(東京国税局管内では33.7%)と依然として大きく、地価上昇の影響をまともに受けやすい構造といえます。
ここで厄介なのは、この負担増がキャッシュフローを伴わない点です。土地は持っているだけでは現金を生みませんが、相続税は原則として現金で一括納付しなければなりません。納税資金が用意できず、やむなく土地を手放す、いわゆる売り急ぎが起きるのはこのためです。加えて、資産に占める不動産の比重が高まることで遺産分割も難しくなり、代償金の負担が増すという問題も生じます。もっとも、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減など、負担を抑える制度は用意されています。地価が上がる局面ほど、これらを織り込んだ生前の設計が効いてくるということでもあります。
なお、固定資産税については誤解が多いところです。路線価が上がっても、それが直ちに固定資産税を押し上げるわけではありません。固定資産税評価額は市町村が別に定めるもので、水準は公示価格の7割程度、しかも3年ごとの評価替えです。直近の基準年度は令和6年度で、令和7・8年度は据置年度にあたります。次の評価替えは令和9年度(2027年度)で、そこで地価上昇が反映される可能性がありますが、負担調整措置によって急増は緩和される仕組みになっています。とはいえ、中長期的には保有コストの上昇要因となる点は意識しておきたいところです。
国・自治体にとってのメリット
まず税収増となります。相続税・贈与税に加え、売買が動けば登録免許税、不動産取得税、譲渡所得税といった流通課税も増えます。とりわけ大きいのが固定資産税で、その税収は9兆9,911億円(令和6年度)、市町村税収23兆9,500億円の約41.7%を占める基幹税です。町村部では約5割に達します。固定資産はどの市町村にも広く存在するため税源の偏りが小さく、景気に左右されにくい安定財源です。地価の上昇は、この基幹税を静かに底上げしていくことになります。
経済面の効果もあります。資産価値の上昇は資産効果として消費や投資を刺激し、担保価値の上昇は金融機関の貸出を後押しします。企業のバランスシートも改善します。長くデフレに苦しんだ日本にとって、地価の持続的な上昇は経済が正常化しつつあることのシグナルでもあり、遊休地の有効活用や都市の更新を促す効果も期待できます。
国・自治体にとってのデメリット
逆にデメリットとしては、住宅の取得しやすさが低下します。地価上昇は住宅価格に転嫁され、現役世代や若年層にとって取得のハードルが上がります。事業用地やオフィス賃料の上昇は、企業のコスト増にもつながります。
より構造的な問題は、格差の拡大です。恩恵を受けるのは土地を持つ人に限られ、持たざる人との資産格差、そして世代間の格差が広がります。地域間の差も同様で、令和8年分では東京都がプラス9.4%と伸びる一方、8県では下落しており、二極化はむしろ鮮明になっています。
財政面では、公共用地の取得費が膨らみ、インフラ整備や再開発の負担が重くなります。また、相続税の納税のために事業用地や農地、山林を売却せざるを得ないケースが増えれば、事業承継や地域の産業基盤が揺らぎます。手放された土地が外部資本や海外資本に渡り、地域の姿が変わっていくという論点も、観光地を中心に現実味を帯びています。かつてのバブルの教訓に照らせば、行き過ぎた上昇が金融システムのリスクとなる可能性にも、目配りが必要でしょう。
表裏一体であることを踏まえて
このように、路線価の上昇は「資産の増加」と「税負担の増加」が表裏一体であり、国にとっても「税収増」と「社会的コスト」が同時に生じます。どちらか一方だけを見て評価できる現象ではありません。不動産をお持ちの方は、資産価値が上がったことを喜ぶだけでなく、それが将来の納税額にどう跳ね返るのかを早めに試算し、備えておくことをお勧めします。
参考リンク
国税庁「令和8年分の路線価等について」
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2026/rosenka/index.htm
国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/sozoku_shinkoku/index.htm
総務省「固定資産税」(税収・仕組み)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/150790_15.html
総務省「固定資産税の概要」(評価替え・負担調整措置)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/149767_08.html

