長期国債金利の動向と今後の動向の主な要因は?

shisan_202606a1.jpg

 日本の新発10年国債利回りは2026年5月19日に一時2.80%を突破し、6月2日においても2.7%前後で推移しています。これは1996年9月以来およそ30年ぶりの高水準であり、26年初頭の2.1%台から半年弱で約60ベーシスポイントの上昇となっています。30年債利回りも4.00%、40年債利回りも4.22%(5月15日)と発行開始以来の最高水準ゾーンに達しました。
 長期金利は固定金利に影響を与えますが、住宅ローンにおいて代表的な固定金利である住宅金融支援機構のフラット35の金利も急上昇し、6月からの適用金利は返済期間21-35年では3.21%となり、現行制度で初めて3%を超えました。

 ここでは、長期金利を動かす諸要因を整理して解説します。

長期金利の理論的枠組み

 長期金利は、第一に金融政策の先行きとインフレ期待によって動きます。そして第二には、需給バランスや財政リスク、海外要因など多様なファクターなどの影響です。あるシンクタンクでは、①日銀の長期国債保有割合、②2年程度先の金利動向(利上げ期待かどうか)、③米国10年債利回り、の3つが動向の指標として採用されています。これらからみれば、この先も長期金利は上昇可能性が高いと思われます。

政策金利=金融政策の先行きとターミナルレートの予想

 日銀による政策金利は、2024年3月のマイナス金利解除で大きく変更され、以降段階的に引き上げられています。2025年12月19日に0.5%から0.75%に引き上げられました。直近の26年4月27~28日会合では3会合連続の据え置きとなりましたが、採決では据置6対利上げ3となり、3委員が政策金利1.0%への引き上げを主張しました。市場では、次回6月15~16日の金融政策決定会合での利上げを8割方織り込んでいるようです。Bloombergによるエコノミスト調査でも55%が6月、合計88%が7月までの利上げを予想しています。
 また、ターミナルレート(最終到達点)の予想は、三井住友DSアセットマネジメントの予想では1.75%(「アップサイドリスク」あり)、野村證券の予想では1.5%(市場期待は2.0%まで切り上がる可能性)、また、第一生命経済研究所の予想では2027年7月に1.5%超への到達を予想するなど、どのシンクタンクもかなり上昇することを見通しているようです。

インフレ期待

 日銀26年4月の「展望レポート」では、2026年度コアCPI見通しは、前回1月の+1.9%から+2.8%へと1ポイント近く上方修正されました。日銀目標の2%を大きく超える水準であり、「物価安定の見通し」の実現確度が高まったことを意味します。
 インフレ期待の高まりはフィッシャー方程式(名目金利=実質金利+期待インフレ率)を通じて長期金利を底上げします。インフレ期待からの長期金利押し上げが現実の様相となっています。

日銀QT(量的引き締め)

 本来、市場原理により国債金利は決まりますが、そこに日銀が介入する(=日銀が一定額を購入する)ことで、長期金利を抑える策が取られてきました。しかし、日銀は2024年7月会合で国債買入れの減額計画を決定し、月間買入額を四半期ごとに段階的に縮減してきました(徐々に市場にゆだねる)。三井住友DSアセットマネジメントの推計によれば、日銀の長期国債保有割合が1ポイント低下すると長期金利が0.02ポイント上昇する関係にあり、ストック効果の縮小によって長期金利は2028年度までは毎年0.1ポイント程度押し上げられる計算となるようです。
 26年6月15~16日の日銀金融政策決定会合ではこの減額計画の中間評価が予定され、2027年4月以降の買入方針が示されます。5月21日に開催された債券市場参加者会合では、減額停止派と減額継続派の両論が出ました。日経5月16日記事は「高市首相周辺から買入減額に慎重論」と報じており、QT再加速の有無が長期金利の次のレンジを決定づける重要イベントとなります。

海外要因―特に米国長期金利との連動

 米国の10年債利回りは5月20日に16か月ぶり高値4.70%を付け、5月21日も4.60~4.62%で推移しています。5月12日公表の米4月CPIは前年比+3.8%(3月+3.3%から加速)と2023年5月以来の伸びを示し、エネルギーが指数月次寄与の40%超を占めました。FOMC4月28~29日会合議事録(5月20日公表)では「インフレが2%を継続的に上回る場合は政策の引き締めが必要」「緩和的バイアスの文言削除」を多数の参加者が指摘し、年内利下げ織込みは大幅に後退しています。日米10年金利差は5月21日時点で1.85ポイント(米4.62%-日2.77%)と5月12日の2.04ポイントから縮小しましたが、ドル円は158~159円前後と高値圏で推移しており、輸入物価ルートでの日本長期金利押し上げ圧力が継続しています。

世界的な混乱状況

 これらの金融状況に加えて、短期的な価格変動を生む撹乱要因が存在します。第一は地政学リスクで、ホルムズ海峡が3月初旬以降事実上封鎖されたままとなり、5月21日時点でもイラン最高指導者がウラン国外退避を拒否、原油WTIは99~100ドル、ブレントは109ドル前後で推移しています。第二は為替で、5月21日のドル円は158.90~159.28と4月30日以来の高値圏にあり、輸入物価を通じてインフレ圧力となっています。第三は需給イベントで、5月20日の20年債入札(平均落札利回り3.711%と1996年以来の高水準、応札倍率4.01倍)、5月14日の30年債入札(応札倍率3.49倍)、5月12日の10年債入札(応札倍率3.9倍と昨年9月以来の最高)と、利回り水準の高さに支えられた需要回復が確認されています。

要因の階層性と相互作用

 ここまで挙げた変動要因は、独立して作用するわけではなく、相互に増幅・減衰し合う階層構造を持ちます。例えば原油高は、①直接的にインフレ期待を押し上げ、②日銀の利上げ期待を強化し、③円安を通じて輸入物価をさらに押し上げるという三重の経路で長期金利を押し上げます。逆に米国金利が下落すれば、①日本との金利差縮小で円高、②輸入物価低下でインフレ期待後退、③日銀の利上げ期待後退、という連鎖で日本の長期金利も低下します。現在の10年金利2.7%台という水準は、これらの要因がほぼ全方向で上昇圧力として作用している結果と理解できます。

まとめ

 長期国債金利の動向は、借入金利という観点とリスクフリーレートとしての観点から、不動産市場に大きな影響を与えます。ここまで、長期国債金利が動くメカニズムを簡略的に解説しましたが、読んでいただければ分かるように、政策的な思惑の影響が強く出ます。そのため、政治経済金融の情報に注視しておきたいものです。