令和7年度分(2025年)の税制大綱が12月27日に公表されました。今年の税制改正では、給与所得者に対して、所得税が課税されない給与収入額(課税最低額)が、103万円から123万円へ引き上げられる「103万円の壁」の引き上げが大きく取り上げられました。
また、沖縄振興のための税優遇制度(沖縄振興関連税制度)は、一部、活用(申請)実績のないものに関しては、除外された項目もありますが、基本的には2年間の延長が盛り込まれました。
ここでは、令和7年税制大綱の中から、住宅・不動産・建築分野で注目の項目を解説し、それが不動産市況に与える影響について考えます。
住宅ローン減税の延長と不動産市況
今年の税制改正では、あまり新しく創設されるものは少なく、多くが「期間限定されていたものが延長される」というものでした。その中でも、多くの国民に影響があるのが、住宅ローン減税の延長でしょう。
住宅購入促進のための減税制度は、1972年からの「住宅取得控除制度」にはじまり、現在まで、名称や、条件、減税あるいは控除の最大金額などは変わりますが、「住宅の自己保有を促進するための、住宅ローンに関連した減税制度」は、何らかの形で行われてきました。
基本的には「国民が優良な住宅を所有し、そこに住むため」の支援ですが、時には「景気刺激策」の側面もありました。近年は、好景気が続いており、「景気刺激策と比して必要か?」という声や、また住宅価格も上昇していることから、「住宅ローン減税は高所得世帯優遇ではないか」との声など批判の声もあります。
住宅ローン減税の年収要件は2000万円以下となっていますが、これは世帯ではなく個人であり、夫婦共有名義の場合それぞれの収入から減税があります。また、この「住宅ローン減税」は「減税」であり「控除」ではありませんので、減税インパクトは大きく、その影響もあり住宅、とくに都市部のマンション価格は上昇しています。もちろん、県内南部のマンション価格上昇の一因でもあります。
「住宅ローン減税」は、令和7年(2025年)も、前年とほぼ同内容で継続されます。
国土交通省の税制大綱に関する資料によれば、「子育て世帯等の住宅取得環境が厳しさを増していること等を踏まえ」、という理由により、住宅ローン減税は、「子育て世帯等の借入限度額の上乗せ及び床面積要件の緩和措置を令和7年も引き続き実施する。」を理由としており、昨今の政策では「子育て世帯を支援する」というフレーズが多く登場しますが、この減税制度も同様です。
住宅ローン減税の概要
住宅ローン減税は、住宅ローン残高の0.7%分(上限あり)所得税・個人住民税が減額されます。長期優良住宅では、23年までは借入限度額(住宅ローン減税対象額)は5000万円でしたが、24年からは4500万円になりました。しかし、今回の改正でも、「19歳未満の子を有する世帯」又は「夫婦のいずれかが40歳未満の世帯」については、5000万円分が適用されます。また、ZEH住宅は4500万円→3500万円となりますが、「子育て世帯・40歳未満世帯」はそのままとなります。
また、昨今住宅価格の高騰により1戸あたりの床面積は減少傾向にあります。そのため、住宅ローン減税の床面積要件は基本側50㎡以上ですが、新築の場合は40㎡以上となります(昨年は、24年中に建築確認を取得した新築物件に関してのみでした)。この40㎡事案の所得制限1000万円で、変更はありません。
減税と控除
繰り返しになりますが、住宅ローン減税は「減税」であり「控除」ではありません。控除は、所得から経費として認められる額の増額(たとえば、ふるさと納税など)で、減税は、計算された所得税額から、その分を減額されます。サラリーマンの方など給与所得の方々においては、年末調整で申告して、減税分が返金される(あるいは次月の所得税と相殺される)こととなります。つまり、所得税額から「住宅ローン減税分」引かれた額が支払う税額となります。ちなみに、「所得税-住宅ローン減税」、がマイナスの場合、住民税から引かれます。「控除」よりも、減税感はかなり大きく、「住宅購入の後押し」となっていることは事実でしょう。
このたび、住宅ローン減税が延長されたことは、住宅価格上昇傾向に良い影響を与えることは間違いないでしょう。
増えつづける老朽化マンション
1970年代以降、日本では都市部を中心にマンションの建築が増えました。とくに80-90年代は大量に分譲マンションが供給され、それらが順次老朽化期を迎え始めます。
国土交通省の資料によれば、2030年を超えると全国で築40年を超える分譲マンションは300万戸近くなり、これらをどうするかは、これから多くの物件で議論となってくるでしょう。
老朽化マンションの対応策は、建て替えを行う、リノベーション工事を繰り返して、本来のRC、SRCの耐久年数である100年以上使うなど、選択肢はありますが、いずれにしても集合住宅は所有権者(区分所有権者)が多く、これらの意思統一は難しくなるものと思われます。所有者の合意形成、そしてそのアクションがスムーズに進むことは、不動産市況に大きな影響を与えることになります。
仮に、あちこちで「なかなか進まない」という状況になれば、マンションを「終の棲家」と考えて保有することがリスクと認識されることになり、マンション価格に大きな影響をあたえそうです。そのため、こうしたことが円滑に進む為の法制度の整備、税の軽減措置などが始まっています。
老朽化マンションの再生等の円滑化の為の組合による事業施行に係る特例措置の創設
分譲マンションにおいて、大規模修繕工事を行い、寿命を延ばすことを促進させるための税制は、「管理計画認定マンション等において、長寿命化に資する大規模修繕工事が実施された場合に、当該マンションに係る固定資産税額を減額する特例措置」があります。
これは、「工事翌年度の建物部分の固定資産税額が減額(1/6~1/2の範囲内において市町村の条例で定める割合で、参酌(さんしゃく)基準は1/3)」という税優遇制度です。これが、2年延長されることになりました。
そして、今回の税制大綱では、「老朽化マンション等における区分所有関係の解消・再生のための仕組みに係る税制上の特例措置」が創設・拡充されることになりました。
「分譲マンションの所有者が有する区分所有法において、区分所有関係の解消・再生のための新たな仕組み(建物取壊し敷地売却、建物更新(一棟リノベーション)等に適用)が創設されること」を前提とした、マンション建替円滑化法において、これら新たな仕組みに対応した事業手続(組合設立等)の創設が検討されています。
老朽化マンションの再生、あるいは一棟リノベーション工事(建物更新工事)においては、費用負担の問題が区分所有者間の合意形成の最大の阻害要因となっています。このため、新たな事業手続を活用した再生等を円滑に進めるためには、「事業実施のために設立される組合について費用負担軽減が必要」ということで、減税処置が行われます。
具体的には、マンション建替円滑化法において新設される、「マンション取壊し敷地売却事業」(仮称)、「マンション更新(一棟リノベーション)事業」(仮称)等の円滑化のため、事業の施行者(組合)に関係する特例を創設し、そこで、「法人税・法人住民税・事業税・事業所税」に対して、収益事業以外の所得の非課税措置が行われます。また、消費税・地方消費税においては、資産譲渡等の時期、仕入税額控除及び申告期限の特例が創設されます。