5月22日に長期国債(10年物)の金利が一時1%を超えました。これは11年ぶりのことで、日銀による金融緩和政策を徐々に収束させる流れを見越してのことのようです。
長期金利だけでなく短期金利においても金利上昇の憶測が広まっています。賃貸住宅を建築する際にたいていの方が金融機関からの融資(通称:アパートローン)を利用され、その多くの方々は変動金利を利用します。変動金利は短期金利に連動しますので、短期金利(政策金利)の動向は気になるところです。執筆時点では、変動金利は大きな動きはありませんが、今後は警戒したいところです。
ここでは、24年後半の金利の動向と建築工事費などの動向から「いま賃貸住宅を建築すべきか」について解説します。
インフレ見通しは上昇
日銀は、年4回(通常1月、4月、7月、10月)金融政策決定会合において、先行きの経済・物価見通しや上振れ・下振れ要因を詳しく点検し、そのもとでの金融政策運営の考え方を整理した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)を決定し公表しています。直近では4月の会合で、この展望リポートが合わせて公表されました。
リポートでは、消費者物価指数(生鮮食品を除く)上昇率の見通しを2024年度は前年度比+2.8%(1月のリポートでは+2.4%、前年10月分では+1.9%)、25年度は+1.9%(同1.8%)にそれぞれ上方修正しました。今回から新たに公表した26年度の見通しは+1.9%となっています。つまり、前回の見通しに比べてインフレ率の見通しを上方修正したということになります。為替の影響、原油価格上昇の影響などを加味したもののようです。
24年後半に、金利は上がるのか?
ご承知のとおり、2013年からの不動産市況が好調の最大の要因は、低金利誘導政策(金融緩和政策)によるものでしょう。超低金利がトリガーとなり、低金利が続くものとして不動産への資金流入が続いていることは間違いありません。しかし、一部報道などでは、年内2回程度の利上げの憶測が報道されています。
理論上の政策金利は、自然利子率+予想インフレ率で計算できます。このうち、自然利子率は、経済・物価に対して引締め的でも緩和的でもない景気に中立的な実質金利のことを指します。自然利子率がいくらかの判断は難しいものですが、内閣府が23年に示した潜在成長率を自然利子率に適用すれば0.5%前後となります。これに、インフレ率見通しを2%として足すと理論上の政策金利は2.5%まで上昇してもおかしくないということができ、「今後金利は上昇しそう」という憶測が高まっているのも理解できます。
仮に政策金利がさらに上がれば、短期プライムレートが上昇し、借入における変動金利が上昇する可能性があります。一方で、国債金利が上がれば長期プライムレートが上昇、借入における固定金利上昇可能性が高まります。
賃貸住宅建築をはじめとする不動産投資においては、ほとんどの方が金融機関からの借入を行いますので、金利の上昇は月々の返済つまり借入総額が多くなります。
4月の金融政策決定会合では政策金利は据え置きとなりましたが、変動金利に影響がある短期プライムレートは、将来の利上げを見通した多少の上昇はあるかもしれません。
家賃の上昇可能性がいっそう高まる
金利が上がる事はネガティブな事ばかりではありません。
「金利を上げる」という政策を取るわけですから、「経済の循環が徐々に好転している」と分かる数字が出ていることが条件となります。日銀では、「2%以上の安定した物価上昇見通しが見えてきた」と見ており、そして春闘では賃金上昇率(ベアと定期昇給合計)が5%を超え、中小企業においても4%を超えるような状況となっています。
物価上昇と賃金上昇が顕著となれば、少し遅れて家賃の上昇の可能性が高まります。すでに、都市部での住宅賃料は上昇基調が明確になってきました。「家賃は物価上昇に送れて上昇する」ことはよく知られたことです。また、賃金が上がれば、家賃に回すお金が増え、家賃上昇に耐えうる状況となり、好循環が生まれます。
金利上昇が仮に起これば、マイナスの要因として利息が増えることになりますが、賃料増額になれば、利息増額分が相殺されることも考えられます。
円安が続けば、さらなる建築工事費上昇は避けられない
円安傾向は、ドル円相場では日本と米国の金利差によるものが直接的な理由ですが、根源的には「強いアメリカ経済」と「相対的に弱い日本経済」という構造によるものです。現在の状況では、日銀も明確に示しているように「金利を上げる状況にない」つまり、「日本経済はそれ程強くない」ということですから、いまの双方の状況が続くならば、円安基調は続くことになるでしょう。そして、石油などの資源や多くの原材料を輸入に頼る我が国においては、円安は企業物価の上昇となり、ひいては消費者物価の上昇になります。つまり、これからしばらくの間、「円安」が続き、そして「インフレ」基調はもう一段進みそうな可能性が高い、ということになり、我々の生活にも影響が出てくることでしょう。一方で、多くの売り上げを海外市場で創る企業にとっては、円安はプラスとなり、こうした企業の株価は上昇するでしょう。
ちょうど「ウッドショック」が言われていた時、輸入原材料の価格上昇が顕著となり、指数でみれば21年の半ばから企業物価指数は上昇しました。海外でのインフレと石油価格などが上昇し輸送コストが上昇したことが要因でした。この間も為替相場はジワジワと円安基調でしたので、これらが相まって物価上昇となり、消費者物価指数は22年に入り上昇しました。そして、建築工事費も上昇しました。
昨今の状況では、原油価格上昇、海外での物価は高止まり、そこにここ30年では最も円安状況となっていますので、原材料費上昇に伴う物価上昇、そして建築工事費の上昇は避けられない状況といえるでしょう。
賃貸住宅投資はどうなる?
金利上昇は、短期プライムレート上昇につながり、ローン金利における変動金利上昇可能性があります。金利の上昇可能性は高まっていますが、仮に上昇しても「少しずつ、ゆっくりと」という状況でしょう。
その一方で、すでに家賃上昇傾向は顕著になってきていますが、かなりの確率でもう一段の上昇可能性があるものと思われます。そうなれば、金利上昇分のうち一定割合は吸収することができます。
こうしてみれば、気になるのは、我が国の金利がそれほど上がらない状況が続くとすれば、為替相場は円安が続くことになり、その影響で建築工事費が上昇する可能性が高まることです。過去を振り返ってみても一度上がった建築費はなかなか下がりません。
賃貸住宅建築をお考えの方は、金利動向よりも、建築工事費の動向を気にする方がよいと思います。