旧耐震賃貸住宅、迫られる選択と建て替えメリット

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 全国各地で、中心市街地の再開発が進んでいます。2013年以降の金融緩和に伴う低金利は大きな要因ですが、一方で「建物自体」の老朽化が進んでいることも大きな要因です。

 欧米各国では、建物はメンテンナンスやリノベーションを施して100年以上使う事例が多く見られますが、我が国ではそうした事例はほとんど見られません。風習の違いということでしょう。こうしたことから、我が国では定期的に街の大改造が行われ、ある期間に一気に建物が建てられ(建て替えられ)ます。東京など都市部では、1960年代からの高度成長期に都市化(地方からの人口流入)が進み、それに伴い多くの建築物が生まれました。

 それから50年以上経過しました。時の流れで抗うことのできない建物の「老朽化」と「低スペック」を、我が国では「建て替え」で対応します。このところの日本全体で見られる、「街の再開発」はこうした要因が大きいと思われます。

賃貸住宅も築50年を迎える

 賃貸住宅に目を向けると、我が国で民営の賃貸住宅が増え始めたのも高度成長期ですので、同様に50年以上経過しました。

 日本は1960年台に農村から都市への人口流入が進み、都市部での住宅需要が大きく増えました。国や各都道府県、市町村では住宅供給を行う公社を設立し分譲住宅の供給だけでなく、賃貸住宅の提供を進めました。同時に、民間の方が所有する賃貸住宅の建設も進みました。1戸建て住宅の部屋を貸す「間借り」、あるいは長屋的な建物のイメージの「貸家」は、それまでもありましたが、70年代に入り、プレハブ住宅進化とともに遊休地に賃貸住宅を建てて貸す、「民営賃貸住宅」が増えました。このころの賃貸住宅が、2010年以降40年を超えた賃貸住宅が建て替え期を迎えています。

 沖縄県においては、本土に送れること10年。復帰から10年を経た1980年後半から民営の賃貸住宅が増え始めます。また、90年代に入り基地の返還が進むと、地主へ返還された遊休地の活用として賃貸住宅経営が進みます。このころに建築した賃貸住宅は、築30年を迎えることになります。

耐震化の議論

 1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災、等の大規模災害が起こり、住宅の耐震化についての議論が盛んにおこなわれてきました。居住用の一戸建て、とくに木造住宅において、そのリスクの高さが指摘され、行政が補助金を出すなどして、耐震化を促しています。そして、その流れは、共同住宅タイプの賃貸住宅にも及んでいます。

 賃貸住宅の建替えには、耐震基準の変化も要因としてあげられます。わが国では、大きな地震が起こるたびに、建築基準法における耐震基準が見直されてきました。1971年と81年に大きな変更があり(以降も多少の変更あり)、現行は、1981年の耐震基準がベースとなっています。我が国では旧耐震賃貸物件は約386万戸、それよりも前の基準である旧旧耐震賃貸物件は、約137万戸あるとされています。このデータは2016年のものですので、現在はもう少し増えているものと思われます。沖縄県においても、現行の耐震基準を満たしていない賃貸住宅は、多く存在しています。

 旧耐震基準下で建てられた賃貸住宅を所有されているオーナーは、特に賃貸住宅競争力の落ちる築40年を超える物件を所有する方は、「旧耐震賃貸物件をどうするか」の選択が求められます。近いうちに起こると言われている、首都直下型地震、あるいは沖縄でもかなりの影響が想定されている南海トラフ巨大地震のことを考えると、できるだけ早めの対応がいいのかもしれません。

古い賃貸住宅の対応

 旧耐震賃貸物件の対応は、主に以下の3つが考えられます。

1)建て替える 2)耐震補強工事を行う 3)取り壊す

 賃貸物件の残債もなく(あるいは、少なく)、また、沖縄県の各地のように、今後も賃貸住宅需要が旺盛だと思われるエリアの旧耐震賃貸物件は、一般的には建て替えるのが最もよいと思われます(オーナーの置かれている環境にもよりますので、一概には言えないことに注意してください)。

 建て替えには、相応の費用の投資が必要ですが、金融機関からの融資がスムーズに行え、また今後も賃貸住宅経営からの収益が上がり、さらには税などのメリットが享受できます。 新たな借り入れを起こすリスクに比べそれを超えるようなメリットがあると判断すれば、建て替えるのがいいと思います。

 賃貸住宅経営を始めた当時に比べて、建設費はずいぶん高くなっています。その一方で、建て替えを行い、賃貸住宅が新築になると賃料は高くなりますので、収益シュミレーションをきちんと立てて、最終的な判断を行ってください。