7月1日に国税庁から路線価が発表されました(価格時点は1月1日)。2022年分の路線価は、全国では前年比0・5%増、2年ぶりの上昇となりました。
新型コロナウイルスの影響が徐々に少なくなり、経済活発化の兆しや人流の増加が見られ始めている地域が増えてきました。そのため、22年度路線価では、観光地や繁華街などでプラスに転じた地点が目立ち、またマイナスの地点でも下げ幅縮小するなど、回復のキザシが鮮明となってきました。ただ、新型コロナウイルスの影響が出る前までには戻っていないという状況です。
路線価は、3月下旬に公表される公示地価と同じ価格時点で、また公示地価などを基にした価格(時価)の80%程度を目途に評価されていますので、そのため今年3月に発表された公示地価と同じような傾向となります。
今回は、公開されたばかりの22年路線価を解説します。
路線価とは
路線価は、国税庁が発表する不動産が関わる税、例えば相続税や贈与税や固定資産税の課税基準を算出する際の基準となる土地価格です。22年中に、お亡くなりになった方の相続に伴う相続税、22年中に行われた贈与に伴う贈与税などは、この路線価を使うことになります。
また、路線価(路線価が設定されていない地点(=土地)では評価倍率)は、全国にある宅地、田、畑、山林が対象となります。ここでいう、「宅地」とは、住宅地という意味ではなく、住宅、商業施設、ビル、工場など、その用途にかかわらず、「建物の敷地となる土地」をさします。
路線価は、特定条件や奥行距離等による補正、その他その計算方式はかなり複雑です。国税庁のホームページで検索すれば、ご自身で路線価を計算することもできます。(アドレス下記)
https://www.rosenka.nta.go.jp/
課税額は、個人の状況によりかなり異なりますので、より詳細な税額については専門家に相談するといいでしょう。
22年度路線価の全国俯瞰
22年の路線価は全国平均でプラス0.5%上昇し(昨年はマイナス0.5%)、全国20都道府県で「標準宅地の対前年変動率平均値」(以下同)が上昇しました。
2021年分では、東京都や大阪府は7年ぶりの下落となりました。全国では、39都府県で下落、上昇は7道県で、新型コロナウイルスの影響が出る前(2020年1月価格時点の路線価)の上昇は21都道府県でしたので、大幅に減っていました。
しかし、今年は回復した地域が目立ちました。昨年は前年比マイナスとなった東京・大阪・愛知の3大都市いずれもプラスに転じました。
都道府県別見れば、前年からの上昇率の上位は、1位北海道、2位福岡、3位宮城、4位沖縄、5位愛知となっています。これらの道県では、主要都市(あるいは主要駅)での駅前再開発が進み、人口・世帯数とも大きく増加しています。昨年マイナスからプラスに転じた都府県は13あり、合計で20都道府県がプラスとなりました。
東京都の路線価の状況
東京都の路線価は平均で前年比1.1%上昇しました。昨年は8年ぶりの下落でしたが、1年で再び上昇基調に戻りました。
今年度の東京都における路線価の上昇率を丁寧にみると、大きな傾向に気が付きます。それは、上昇率上位に住宅地に隣接する駅前周辺地が目立ったことです。逆にオフィスエリアや繁華街では回復の遅れが目立ち、下落率の上位には、上野や池袋といった都心繁華街、商業地が並んでいます。また、八重洲・丸の内といったオフィスエリアの路線価も回復はまだ先のようです。
今年の東京都の路線価の傾向を見ると、
- インバウンド観光需要、国内観光需要が戻りつつあり、昨年分は大きく下落したが、多少回復のキザシが見え始めている。
- リモートワークが定着し、地域に根差した商店街やショッピングセンターなどは好調が続き、都市部の中にあって地元感のある地域が伸びている。
- オフィス需要は厳しい状況が続いており、広く一般化したリモートワークはもとには戻らないと思われる。この状況に今後の都心での新規供給が増えることを勘案すれば、オフィスエリアの苦戦は続く。
大阪府の状況
大阪府の路線価は平均で前年比0.1%上昇しました。昨年はマイナス0.9%でしたので、かなり回復したことになります。
傾向としては、上記東京の①~③と同様です。
ただインバウンド観光需要が旺盛だった地域では、まだ外国人観光客はまだわずかで苦戦が続いています。また、新型コロナウイルスの影響が出る前(路線価では20年分)まで、勢いよく地価上昇が続いていた反動もあって、大阪ミナミの繁華街では、昨年に続き大きく価格が下落し、心斎橋2丁目の地点では、全国最大の下落率(各税務署管内の最高路線価地点の中で)となりました。
県庁所在地の最高路線価
都道府県庁所在地の最高路線価地点をみると、上昇したのは31の地点でした、前年は8都市の地点でしたので大幅に増えたことになります。一方、下落したのは16地点(前年は22都市)で、全国的に新型コロナウイルスの影響が減ってきていることがうかがえます。
しかし、都道府県庁所在地の最高路線価地点の1位(東京都中央区銀座5丁目)、同2位(大阪市帰宅角田町御堂筋)は、ともに前年比マイナスとなっており、繁華街の回復が遅れている象徴的な地点となりました。
図1は、都道府県県庁所在都市の最高路線価を「対前年比」の順に並べたものです。上位は、千葉市・札幌市・広島市の順となっており、下位は、神戸市・鳥取市・大阪市の順となっています。
今後の見通し
大都市においては、居住エリア(住宅地)の上昇は鮮明で、一方オフィスエリアの回復は未だ道半ばという状況です。とくに、東京都心では23~25年は新規ビルの竣工が重なり供給が一気に増えます。オフィス需要の急回復がない限り賃料下落は避けられず、そうすればオフィスエリアの地価は回復が難しいかもしれません。
また、「都市のど真ん中」というエリアの地価は依然高い状況は続くと思われます。加えて、リモートワークが普遍的に続くとするならば、とくに賃貸住宅需要においては「都市の中の地元感のある地域」の住まい(都市の中の下町)の人気はさらに高くなり、それに伴い、こうした地域の地価が上昇する可能性は高いでしょう。
最後に、今年後半から、徐々にインバウンド観光客は増えてくるものと思いますので、来年以降の繁華街、観光需要に強いエリアにおける路線価の回復を期待したいところです。
沖縄県における22年路線価の分析
ここからは、沖縄県における路線価の状況分析です。
沖縄県の状況
沖縄県内の路線価(標準宅地)は、対前年比でプラス1.6%(平均)と前年と同じ上昇幅で8年連続の上昇となりました。落ち込みはないものの、20年分(20年1月1日が価格時点)はプラス10.5%でしたので、勢いが回復しているとは言い難い状況とです。また、都道府県単位での上昇率(平均)では、沖縄県は4位で昨年の2位から順位を落としました。
新型コロナウイルスの影響から完全回復したとは言えない状況で、観光客は戻ってきているものの、まだまだ完全復調には程遠く観光関連施設が集中するエリアでの伸びはない一方で、住宅需要は依然高いため、この要因が路線価上昇に導いた格好になっています。
県内最高地点は、国際通りの久茂地3丁目で142万円(㎡)で前年比でマイナス0.7%と2年連続のマイナスとなりました。
沖縄県内には6つの税務署管轄に分かれていますが、その管轄内での最高地点の比較では、宮古島の平良西里大通りがプラス9.5%と最大の伸びとなりました。
沖縄県県庁所在地の最高路線価
沖縄県那覇市の路線価最高地点は国際通り(久茂地3丁目)で、1㎡あたり142万円となっており、前年からマイナス0.7%となりました。
前年はマイナス1.4%で、前々年はプラス40.8%と国内ダントツの1位でした。このようにまだまだ新型コロナウイルスの影響は大きいようです。