賃貸住宅ローンの今後の見通し

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 日銀による金融緩和策の出口模索の様相が、ちらちらと見え始めました。それに呼応するように、為替相場の振れ幅も大きくなっています。1ドル150円前後でしばらく推移していましたが、ここ1週間は141円台~146円台荒い展開となっています。同じように、国債価格(国債金利)も大きく動いています。

 また、「金融緩和策が解除されると、金利は一気に上がるかもしれない」、そんなことを考える方もいるかもしれません。今回は、賃貸住宅融資(アパートローン)金利の見通しを考えてみましょう。

アパートローン金利の状況

 土地活用として賃貸住宅建築を行う場合、多くの方が、金融機関や住宅金融支援機構が貸し出しを行っている「賃貸住宅建築ローン」、通称「アパートローン」を利用します。銀行などの金融機関では、アパートローンも住宅ローンでも、表向きの「店頭金利=基準金利」と、そこから各種要因で多少金利を引き下げた「適用金利」や「最優遇金利」が提示されるのが一般的です。そのため、金利表を見ていると「店頭金利から▲0.5%」などと記載されています。また、各銀行で多種多様バリュエーションのアパートローン商品があり、なかなか動向が掴みにくくなっています。そのため、ここでは建築する物件に制限(省エネ・子育て世代向け・まちづくりなど)はありますが、参考金利が提示されている「住宅金融支援機構」の「賃貸住宅融資金利」の動向を見てみましょう。

 ここ1年間の住宅金融支援機構の「賃貸住宅融資金利」(繰り上げ返済ナシ)は、15年固定では1.8%台~2.1%、35年固定では2.0%台~2.2%台となっています。

 直近の23年10月・11月・12月分をみれば、10月→11月に、0.1%程度上昇しましたが、12月にはそこから少し下がっています。

住宅ローンとアパートローン

 住宅ローンは、そもそも「一般国民が広く住宅を取得するためのサポート」の側面が、強く、ほぼどの金融機関が、ある程度パッケージ化されたローン商品を揃えています。そのため、いわば「投資用の住宅」である賃貸住宅を取得する(建築する)ためのローンよりも、格段に低い金利設定となっています。

 しかし、住宅ローン・アパートローンとも、固定金利は長期国債金利(あるいは長期プライムレート)、変動金利は、短期プライムレートに連動しています。これらの金利に各種リスクプレミアムや利益を金利に上乗せしたものが、提供金利となります。こうしたことから、「住宅ローン金利の動向」と「アパートローン金利の動向」は同じような傾向となります。違いは、「住宅ローン金利」ほうが格段に低いということです。

住宅ローン金利:ここ数か月の動向

 ここからは、住宅ローン金利のここ数カ月の動向を見てみましょう。アパートローン金利の動きもほぼ同じですが、開示情報の多い住宅ローン金利で解説することにします。

 10月末に発表されたメガバンクの11月適用分の固定型住宅ローン金利は、前月に比べて上昇しました。10年固定型の基準金利の単純平均では3.80%(+0.12%)、これは12年ぶりの高い水準で、優遇後の金利(平均値)でも1.29%(+0.12%)となりました。固定金利は長期金利の動向を反映するため、10月中の長期国債金利上昇によるものです。10月31日に長期金利の事実上の上限だった1%を「めど」とし、一定程度超えることを容認するイールドカーブ・コントロール(YCC)の再修正を決めたことで、長期金利は0.9%台となりました。大手金融機関の固定型ローンの金利は前月の中~下旬の長期金利をもとに決めるのが一般的で、11月適用分のローンに10月のYCCの再修正は反映されていないと考えられます。そのため、固定型ローンの金利は12月以降にさらに上昇する可能性は極めて高いと思われていました。

 しかし、予想に反して12月分の大手行が提供する固定型住宅ローン金利は概ね、0.1%程度下がりました。これは、この間の長期金利(10年物国債金利)が10月末に比べて、11月半ばには低下していたことに伴い、固定金利が下がったということになります。

 一方で、多くの方が利用する変動金利は、短期プライムレート連動となりますが、これは政策権利の影響を受けますが、いまのところ動きはありません。

今後の見通し

 金融政策のかじ取りを担う日銀は、金融緩和策の出口を模索していることは間違いないでしょう。
 日銀の政策との関係でいえば、イールドカーブコントロール(YCC)の政策変更は、固定金利に影響があります。こちらは、徐々に「コントロール」をせず、「市場に任せる」状況へと舵を切っています。現状の日本国長期国債(10年)は米国長期国債の影響をかなり受けて価格(=金利)が上下しています。そのため、すでに1%超えを容認している状況で、この後YCCを撤廃すると、「いきなり、急上昇」の可能性は少ないと思います。また、24年に入り、アメリカが利下げする可能性が高くなってきており、そうなればまた状況が変わりそうです。

 金融緩和策を徐々に解除すること、つまり現行の「マイナス金利政策」から、「少し金利を上げる」ということですが、仮に行われるとすれば、①サプライズ的に年明けの早いタイミング、②順当なら実質賃金の上昇が数字に表れた24年4月ころ ③慎重に見極めるなら 24年7月ころ、の3つのシナリオがあると思いますが、可能性的には24年4月が高いと思われます。

 では、どれくらい金利が上がるか。我が国の政策金利は、2016年1月29日から、マイナス0.10%となり、その後横ばいとなっています。マイナス金利の解除(0%)から最大0.25%と思われます。ただ、変動金利は、これまで短期プライムレートに連動してきましたが、仮に政策金利が少し上昇したとして、短期プライムレートがどれくらい上がるのか、もしかすると上がらない可能性もありそうです。

 こうして考えれば、24年に向けて、金融政策の変更は行われそうで、それは今後徐々に市場に織り込まれていくことになりそうです。ただし、大きな金利上昇は、現時点で考えられず、賃貸住宅ローン金利も、24年に入れば多少上がると思われますが、それほど大きな上昇は考えられないと思われます。

 それよりも、警戒しないといけないことは、金利上昇の時に、マスコミなどによる「不動産市況における「ネガティブムード形成の報道」だと思います。そのような時には報道に惑わされず、冷静な対応が求められます。