賃貸住宅オーナーの為の確定申告について

shisan_202212b.jpg

 例年、10月半ば頃になると「生命保険控除」が届き、「そろそろ、源泉徴収や確定申告が近づいてきたな」と多くの方が思うことでしょう。少しずつ寒くなってくるこのごろ、「今年もあと少し」という時期になります。

 ご承知のとおり、不動産所得など給与所得以外の所得がある方は、毎年3月15日頃までに確定申告の必要があります。慌てて書類をそろえるという必要はないのですが、徐々に準備を始めたいところです。

 今回は、賃貸住宅オーナーの為の確定申告についてお伝えします。

損益通算制度

 所有する土地に賃貸物件を建築しそれを貸す「賃貸経営」は、その名の通り「経営」を行うことです。そのため、期間内(個人オーナーの場合は、1年単位。1~12月です。企業の場合、1決算期単位)での収支状況を正確に把握し、収益を算出し不動産所得(個人による不動産賃貸事業における所得は、事業所得とはいわず不動産所得と呼ばれます)を確定させ、給与所得と合算して計算し(プラスの場合もあればマイナスの場合もあります)、それに応じた税金を納めることになります。

 不動産所得と給与所得等を合算しますので、不動産所得がマイナスとなった時は、給与所得での徴収税が返還されることがあります。このように各所得のプラスとマイナスをぶつけることができる制度を損益通算と言います。損益通算の対象となる所得は、不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得のみです。

 株式や配当などに関するものは分離課税となり損益通算はできません。(その他、細かい補則がありますが、ここでは省略しますが、詳細をお知りになりたい方は、国税庁のホームページなどを参考ください。)

不動産所得の算出

 不動産所得は収入ー費用で算出されます。

 企業の損益計画書(P/L)でいえば、
売上―原価=利益 
利益―販管費(経費)=営業利益 となります。

 イメージ的には、この「営業利益」が不動産所得ということになります。

 企業経営では、収入と必要経費を予測しておくことが重要ですが、不動産所得においても、「賢く税を納める」ためには、賃貸経営において、予測=事業計画をしっかりと立てておくことが重要になります。

収入の計上について

 不動産所得は、収入から必要経費を引いたもの、つまり差分(利益)が所得となります。

 賃貸住宅を例にすれば以下のようになります。

 月単位の賃料(年換算では×12)に加え、礼金・更新費用、駐車場などがあればその賃料の年間合計となります。ここでの、年単位の収益算出において重要な事は、〆の月の収入については入金ベースではなく、発生ベースで家賃計上を行うということです。ある年の年末12月分の賃料が例えば1月5日に振り込まれたとしてもそれは12月分ですから、12月分として計上するわけです。未収金があっても同様です(貸し倒れ引き当てなどに入れる場合もあります)。

 一方、礼金はや更新費用は、契約した年次の収入として算入します。しかし、敷金は預かり金ですので事実上の収入には収益計算の時は算入しません。ただし、敷き引き(一定額は退去時に差し引きます)という契約がある場合は、その分は契約した年次に収入に含めることができます。

経費について

 経費は、該当物件の賃貸経営がスタートした際にだけかかるものと、ずっとかかるものがあります。

 スタート時にかかるものは、登記費用(登録免許税)や不動産取得税、抵当権設定費用といった税にまつわる費用や物件取得のために仲介会社に依頼した場合等では仲介手数料などがあります。

 費用として常に見ておくものとしては、固定資産税・都市計画税(土地分+建物分)、管理委託費用、修繕関連費、保険料、ローン利息、そして建物の減価償却費用などです。また、入居者斡旋にともなう仲介手数料は、その都度かかります。これらの中には、年1回支払うものと毎月支払うものがあります。

 経費は、〆の月(個人オーナーの場合は12月末になります。)までにその事が確定しており、業務が行われていれば、その年に計上することになります。修繕工事などで、工事が進行中の場合は、支払いが行われていない場合は、未払い費用として計上することになります。

利益の確定

 こうして収入と経費の計上を行うと、利益が確定します。個人の場合、その他の収入(例えば、給与収入など)と合算を行います。さきほど述べた損益通算です。そこから各種控除がおこなわれ、税の算定基準となる「総合課税所得」が定まり、税を納める(あるいは還付される)ことになります。

青色申告と白色申告

 確定申告の方法は青色申告と白色申告の2種類があります。どちらで確定申告をするかで節税面で大きな差が出るので、両者の違いを知っておくといいでしょう。結論からいうと、白色申告のメリットは少なく、逆に青色申告には、最大65万円の控除というメリットがあるため、青色申告を選択するのが「賢い選択肢」と言えます。

 青色申告では、55万円(一定の要件を満たせば最大65万円)の特別控除を受けることができます。また、それ以外にも、一定の条件をクリアすれば、①減価償却資産を300万円まで一括して処理できる、②赤字を3年間繰り越して、収入から差し引ける。③貸倒引当金を利用できるなどの利点があります。

 しかし、メリットがある分、申告方法などが煩雑なため、税理士などに頼む方も多く(費用がかかり、結果メリットがあまりなかったという声も聞きますが)、経験のない方が自ら行う時には十分な注意が必要です。ちなみに、近年は安価な税務ソフトが入手できるため、ある程度ハードルは低くなってきています。 

 平成30年度税制改正により、令和2年分(2020年分)から、青色申告特別控除額が65万円から55万円に下がりました。その代わりに、青色申告に限らず、基礎控除額が38万円から48万円に引き上げとなるので、実質的には代わっていません。更に、55万円の特別控除ですが、e-Taxによる申告、又は電子帳簿保存を行うと、引き続き65万円の青色申告特別控除が受けられます。よって総額では、113万円の控除に増えました。

 確定申告を青色申告形式で行えば、様々な特典がありますので、是非活用したいものです。また、青色申告を活用するためには、「青色申告承認申請書」を、青色申告をしようとする年の3月15日まで(新たに事業を開始した場合は、開始から2か月以内)に所轄税務署に提出する必要があります。