不動産デジタル取引 解禁

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 22年5月18日より、不動産取引(売買・賃貸)にかかわる契約等の手続きが全面的にオンラインで行うことができるようになりました。

 21年5月 19 日に公布された「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」において、押印を求める行政手続・民間手続について、その押印を不要とするとともに、民間手続における書面交付等について電磁的方法により行うことなどを可能とする見直しが行われました。宅地建物取引業法関連では、宅地建物取引士の押印廃止や、重要事項説明書、契約締結時書面、媒介契約締結時書面等の書面の電磁的方法による提供が可能となります。

オンライン取引の詳細

 この改正法が施行されることで、売買(個人間・企業間・個人対企業 などすべて)、賃貸(同)契約においてオンライン取引ができ、書面もメールなどでやり取りできるようになります。

不動産デジタル取引 解禁|資産活用総研 大鏡建設

ここまでの経緯

 一気に進んだのは、2021年5月12日にデジタル改革関連法が成立してからで、その中に、デジタル社会形成整備法があり、これに不動産取引も該当しました。また、改正民法が2020年4月1日から施行されたことで、ハードルを超えることができました。

 これまで、導入に向けて多くの企業が社会実験に参加し、アンケートに答え、意見を出し合いました。その流れは以下の通りです。(22年5月国土交通省HPより)

不動産デジタル取引 解禁|資産活用総研 大鏡建設

消費者のメリット

 この改革で享受できる消費者のメリットを列記すると以下のようなことがあります。

  1. 遠隔地顧顧客の移動の問題解消
    国内の遠隔地に住む方の購入はもとより、海外の方による日本の不動産購入実例が増えて来ています。「重要事項説明書を聞くためだけに来日」ということもあったようで、利便性が大きく向上します。
  2. 契約に係る費用等の負担軽減
  3. 重要事項説明や契約書締結を行う日程調整の幅が増える
    重要事項説明書をする側と聞く側の日程調整の幅が広がります。個人の売買では土日に集中しているものが緩和される可能性があります。
  4. 来店などが困難な場合でも本人への説明が可能となる
    様々な理由で来店が難しい方の利便性が向上します。

企業のメリット

一方、企業側(不動産関連企業)の主なメリットは以下の通りです。

  • 効率的になる(時間・場所)
  • セキュリティ対策になる、コンプライアンス対応

また、消費者、企業ともに大きなメリットは印紙費用(印紙税)の負担がなくなることです。

オンライン不動産取引は定着するのか

 現状の社会の流れからすると不動産取引におけるオンライン化は徐々に定着するものと思われますが、いくつかのはハードルがあると思われます。

 1つめは、これまでの社会実験期間に行われたアンケート結果(アンケート結果は、「国土交通省 個人を含む売買取引におけるITを活用した重要事項説明に係る社会実験、結果報告」令和3年1月公表資料より)を見ると、6割以上は投資目的の物件売買であり、個人の実需(=実際に持ち主が住む)物件で定着するのかどうか。

 2つめは、1億円を超える物件が2%程度であり、高額物件でも行われるようになるのか。とくに、実需物件の高額物件で定着するのか。

 3つめは、消費者の年齢をみると、60歳以上の方は約6%程度に留まり、比較的IT環境に不慣れと思われる世代が相手となり得るのか。

 4つめは、重説や契約書の説明を行う側(不動産会社側)のITリテラシーの問題も同様のハードルがあると思えます。

 昨今の流れで売買においても不動産業界のデジタルシフトは進むものと思われます。デジタルシフトは効率性が増すため、コストの低下につながりまた新しい付加価値を生み出す源泉になります。しかし、いうまでもなく、不動産取引におけるオンライン化はセキュリティリスクを伴います。そのため、サービスの受け手が何らかの恩恵を感じる事がなければ、「いまのままでいいんじゃないか」と思うことに繋がりかねないということも言えるでしょう。