権利金,敷金,保証金,更新料,地代の減額について

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第5回目のコラムでは,「賃貸借契約の『お金』をめぐる諸問題」のうち,権利金,敷金,保証金,更新料,地代の減額についてご説明します。第6回目のコラムでは「賃貸借契約の『お金』をめぐる諸問題」の後半として,立退料についてご説明しております

 

不動産の賃貸借契約では,「権利金」,「敷金」,「保証金」という言葉がよくつかわれますが,これらの言葉の違いはおわかりでしょうか。

 

「権利金」については,その法的性質は必ずしも明確ではありませんが,借地権設定の対価として支払われることが多く,いわゆる「礼金」と同じ意味でつかわれることが多いものです。

 

「敷金」は,不動産の賃貸借契約の締結時に,賃借人の未払賃料などの債務を担保するために,賃借人から賃貸人に交付される金員のことをいいます。

 

「保証金」は,敷金と同様の意味を持つことが多いのですが,契約内容により「償却」して返還しないこともあり,この場合には権利金と同様の意味を持つことになります。

 

では,借主が,地代が払えないから敷金から充当してほしいといったとき,地主としてはこの要求に応じなければならないのでしょうか。この点,借主は,敷金を差し入れているからといって,地代の支払いを拒むことはできません。敷金は,借主が地代を滞納した場合の,賃貸人のための担保にすぎないからです。

 

つぎに,賃貸借契約を更新する際に,よく聞かれる言葉である「更新料」。地主や家主は借主に更新料を請求することはできるのでしょうか。

 

「更新料」については,消費者契約法10条に違反するため請求できないのではないか,という問題があります。

この点について,最判(最高裁判所・判例)平成23年7月15日の判例がありますが,この判例では,「更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、賃借人と賃貸人との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。そうすると、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの』にはあたらないと解するのが相当である。」と判示しました。もっとも,賃貸借契約期間,賃料の額に比して更新料の額が高額ですと,消費者契約法10条に違反する可能性があることには注意が必要です。

 

最後に,地代について。地代は,当事者の合意によって決定するものなので,賃貸借契約期間中でも合意があれば増減は可能です。

 

では,地主が不況による業績悪化を理由に地代の減額を求めた場合に,地主は,土地賃貸借契約に,賃貸借契約期間中,賃料を減額しない旨の特約が付帯していることを理由に,地代減額の要求を拒否することはできるでしょうか。

反対に,景気の好転により,公租公課の変動や物価指数に応じて地代を自動改定する旨の特約が付帯している場合に,地主はこの特約を主張して地代の増額を求めることはできるでしょうか。

まず,地代を減額しない旨の特約があっても,地主は借主の減額請求を阻止できません。借地借家法11条1項は土地の価格の上昇もしくは低下その他の経済的事情の変動により,地代が不相当になったときは地代の増減を請求できると定めており,この規定は当事者の約定で排除できない強行規定と解されているからです(最判平成16年6月29日)。

反対に,自動改定特約については,「契約更新時に従前地代より5パーセント増額する」といった常に増額改定を強いるものは借主に一方的に不利益な特約として無効にあることがありますが,路線価や消費者物価指数の変動にスライドする特約については一概に無効とはいえず,地主は地代の増額を請求することができます。

 

地代の増額請求,減額請求ができても,具体的な地代の額が争いになった場合,どのようにして相当な地代を算出するのでしょうか。

地代については,①利回り法,②賃貸事例比較法,③公租公課倍率法,④スライド法,⑤差額配分法といった算出方法があります。地代(家賃)の増減額については,当事者の話し合いによって決めるのが原則ですが,協議が調わないときは,弁護士会の仲裁制度,簡易裁判所での賃料増減調停,調停が不調に終わったときは賃料減額(増額)訴訟によって解決することになります。なお,裁判実務や鑑定実務では,事案に応じて上記①~⑤の算出方法のうち複数の方法で算出された額から総合的に判断して算出します。